大判例

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東京高等裁判所 昭和42年(ネ)585号 判決

一、控訴人の夫の東川森治が取締役の任に就いていた訴外西川物産株式会社が、中央信用金庫から資金を借り入れるについて、被控訴人がその所有にかかる請求原因1、に記載の建物二棟を担保として提供することを承諾し、被控訴人主張の頃訴外会社の右債務について抵当権を設定したこと、訴外会社が右債務の弁済をすることができなかつたため、右建物が競売に付された結果、訴外戸高正雄がこれを競落し、被控訴人がその主張の頃同訴外人の申立にかかる不動産引渡命令の執行をうけて、その明渡を余儀なくされたこと、別紙目録記載(一)の本件土地がもと訴外宇都宮文栄の所有であつたが、昭和二三年七月自作農創設特別措置法の規定によつて国に買収され、更に、昭和三五年九月三〇日国から同訴外人に売り払われ、昭和三六年九月二三日その登記がされたこと、右土地について同年一〇月一七日の受付で右訴外人から控訴人への所有権移転登記がされていること、はいずれも当事者間に争がない。

二、〔証拠〕を綜合すると、被控訴人主張の本訴の請求原因の1、ないし3、の各事実(注)のうちの、前記争のない部分以外のすべての事実が認められる。

三、されば、本件土地所有権は、それが国から宇都宮文栄へ売り払われて同人に移転すると同時に、同人から東川森治に移転し、更に森治と被控訴人との間に結ばれた前記甲第一号証の契約によつて被控訴人に移転したものと認めざるをえない。

四、被控訴人の、控訴人は被控訴人の右土地所有権の取得について登記の欠缺を主張しうる第三者に当らない、との主張について。

前記二、の事実認定に掲げた各証拠を綜合すると、控訴人は、夫の森治が前記認定のようにして被控訴人に甚大な損害を与えるきつかけをつくつたことについて、森治と共に、被控訴人に対し深く陳謝し、森治および自己の全財産を投じてもそのつぐないをすることを誓い、そのため森治が本件土地および地上の建物を被控訴人に譲渡することに賛同し、森治の相談相手として契約の締結に参与していた事実が認められる。原審ならびに当審における証人東川森治の証言および原審ならびに当審における控訴人の本人尋問の結果のうち、右認定に反する部分は採用しない。のみならず、その際控訴人が、本件土地所有権が自己に属するなどということは毛頭のべず、終始森治の所有に属するものとして、被控訴人との間の話合いをすすめたことは前記認定のとおりである。

以上の事実によれば、控訴人は、森治と被控訴人との間の本件土地の右売買契約に関する信頼関係において、売主たる森治と同一の地位に在つたと認めて差支えないから、控訴人が、仮りに、これよりさき訴外宇都宮文栄から本件土地を買受けていたとしても、被控訴人の本件土地所有権の取得について登記の欠缺を主張するのは、著しく信義に反し、到底許容しえないものといわなければならない。したがつて、控訴人は被控訴人の本件土地所有権の前記取得について、登記のないことを主張しうる正当な利益を有する第三者に当らない、と解するのが相当である。

(注) 請求原因1、ないし3、の事実

1、被控訴人は東京都板橋区志村町一丁目五番地の三所在木造瓦葺平家建店舗一棟建坪二〇坪五合(実測二二坪二五)および同所所在木造瓦葺平家建居宅一棟建坪二七坪四五(実測三三坪二五)の二棟の建物を所有していたところ、昭和三二年六月頃控訴人の夫の東川森治から、同人が取締役をしていた訴外西川物産株式会社が訴外中央信用金庫から金融をうけるについて、右二棟の建物を担保として提供することを懇請された。その際森治は「被控訴人には絶対に迷惑をかけない、被控訴人が万一損害をうけたときは、すべて自分が責任を負う」といつたので、被控訴人は右の申入を承諾した。そして右会社は同年七月三日および同年一〇月九日の二回にわたつて同金庫から資金を借り入れ、被控訴人はこの債務について前記二棟の建物に抵当権を設定した。

2、しかるに、訴外西川物産株式会社は右借入金の返済をすることができなかつたので、前記二棟の建物は右抵当権の実行によつて競売に付され、昭和三四年一二月一五日訴外戸高正雄がこれを競落し、被控訴人は、同人の申立による不動産引渡命令によつて昭和三六年五月二日右建物明渡の強制執行をうけた結果、右二棟の建物の所有権を失つたほかに、被控訴人がそこで営んでいた中華料理店の営業および住居をも失うに至つた。

3、そこで被控訴人は、森治に対し、右損害について責任を追及したところ、同人は同年五月八日被控訴人に対し、右損害の賠償として別紙目録記載の土地建物の所有権を譲渡する旨約した。

(小川 松永 小林)

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